キンドルストア ベストセラー 無料TOP100 1位を獲得した話題の書【借金3000万円の旅人】の著者、桐谷あきらが送る、短編1コインシリーズ第一作目! <抜粋> 私の元へ1人の男が訪ねてきた。 聞けば、何処でどう間違ったのかは分からないが、彼は私のことを経営コンサルタントか何かと勘違いしているようで、是非、力を貸して欲しいと突然頭を下げてきた。 「力を貸して欲しい」とはどういう意味だろうか…。 もしかして「力を貸して欲しい」そしてその後は「お金も貸して欲しい」と言う意味だろうかとも考えたが、まぁ、とりあえずは、私の分かる範囲内であればということでその話を引き受けた。 彼は初対面にも関わらず、それまでの経緯を包み隠さず正直に全て話し始めた。 長年勤めたお菓子会社を辞めて、昨年オープンした彼のその念願の居酒屋は、半年経ってもほとんど売上げが伸びず、このままでは先が見えないと嘆いていた。 私はまずは運転資金のことを尋ねてみた。 「もう底を尽きました。 銀行からの借り入れもいっぱいいっぱいです。 カードも残がない状態です。 親からも兄弟からも、もうこれ以上は応援出来ないと言われました。 もうどうしていいのか…」 彼は落胆して吐き出すようにそう言っていたが、私はその話を聞いて、「可愛そうに… なんとかしてやらねば…」とはどうしても思うことが出来なかった。 ふと、あの話が頭をよぎった。 先程の「馬鹿な樵」いや、「切れないノコギリで木を切る樵」の話である。 彼こそが、まさにそれにぴったりと当てはまる人物だと思った。 切実に訴えている会話の中にも、何度も何度も繰り返されて使われる言葉…。 「自分はこんなに頑張っているのに…。 自分はこんなに一生懸命にやっているのに…」 私は彼のそんな言葉を聞けば聞くほど、彼こそがまさに「切れないノコギリで木を切る樵」に思えてならなくなった。 私はふとこう尋ねてみた。 「一生懸命にやるのは当たり前のことではないですか? 頑張るのは当然のことではないですか? でも、あなたが言うように、もしそんなに頑張っているのにその結果が報われないとしたら、それはそのやり方が間違っているんじゃないですか?」